どこか遠い国の、屋敷の2階。
無数の屍が転がり絨毯の上を夥しい血が流れている。

深傷を負った男のぶれる視界。
その中心に若い女と小さな子供の死骸がある。

焼け焦げた骸骨が、その視野の隅で、じっとそれらを見ている。
骸骨は女の声で喋る。
そこにいるその男には骸骨の姿は見えず、また、その声は聞こえない。
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「夢を見たわ」


(燃やしてしまおう)

「あなたと初めて出会った時の夢よ」

(燃やしてしまおう)

「うちの屋敷の庭で、貴方に会ったのよ。
 あなたの叔父様の紹介で」


(燃やさなくては)

「貴方は礼儀正しかったけれど、
 いかにも他人行儀で、興味がなさそうで。
 笑顔のひとつも見せなかったわよね」


(何人だ? 何人斬った? 血が目に入る。)

「会う前は、素敵な人に違いない、と思っていたのに。
 まさかあんな傲慢で無愛想な男だとは思わなかったわよ」


(6、7… 下にあと2… これなら死体がひとつ足りずとも、
 どうということもない。はっ!大盤振る舞いだな。
 俺一人に。恐悦至極だ)

「結婚してみても、仕事、任務、訓練、遠征。
 本当に、最低だと思った」


(俺と背格好が似たのはどいつだ? 
 こいつでいい。どうせ焼いてしまうんだ。
 そうだ、指輪をこいつに… 
 … 手首が折れたな)

「でも、猫がいなくなったとき、貴方、探してきてくれたのよね。
 後から聞いたわ。貴方が、塀の上によじ登った話」


(燃やしてしまわなくては。すべてなかったことのように。)

「何故だか私が好きな花が飾ってあったりね。
 落ち込んでいると、ケーキが運ばれてくるの。
 直に渡しなさいよ、って思ったけれど」


(指輪が外れない。――痛い。)

「この子が生まれた時、貴方は私の手の甲にキスをしてくれたの。
 覚えている?」


(―― …直撃をくらうとはな… この俺が…
 出血が酷い… …はやく燃やして脱出しないと……)

「もう! いつもそうよ。私が話していても、貴方は相づちばかり。
 まあ、たまに口を挟んでも、小難しい、面倒なことしか、
 言わないんだけど」


(はずれた…この死体に、指輪を填めて…剣を、ここに… ランタンは…
 油を足しておいてよかったな――)

「そのくせちゃんと覚えてたりするのよね。
 私が美味しかったって言ってたお店の名前とか。」


(俺は、戦って、賊を斬り殺したが、だが、力及ばず、妻子と共に、ここで)

「でも、あなたと話すの、結構楽しかったわ。」


(このダンマーと刺し違えて、死んだ。火のまわりがはやく、
 誰も――逃げられなかった。
 陳腐な筋書きだ。だが、時間稼ぎにはなるだろう)

「そんなこと言ったらまた憎まれ口を叩くだろうし、言わないけど」

(  痛い。)

「悪くなかったわ。“悪くない”って貴方の口癖よね。
 良い、って言いなさいよ」


(「逃げて」と言った。「助けて」だろう。 なあ)

「ちょっと、こだわるところ、そこなの?」

(血が止まらない。)

「だって、あなただって助けられないわよ。あの状況では」

(……疲れたな……)

「“彼ら”ですら、ひとりひとり、追い詰められて殺されたのよ」


(痛い。)

「あなたにだって、無理よ。無理だったの。逃げなさいよ。
 はやく。遠くに。」


(…いや。火を放たなければ。
 燃やしてしまおう。
 すべてなかったことのように)

「はやく逃げて。火はすぐに回るわ。
 私たちを整えてる場合じゃないの。
 やめてよ。血がつくじゃない」


(なあ…… あんなにうるさかったじゃないか。
 何とか言えよ)

「聞きなさいよ! はやく逃げて、って言ってるのよ!」


(燃やしてしまおう)

「そうよ。燃やして」

(すべてなかったことのように)

「すべてなかったことのように」



(行こう)

「行きなさい。」





(夢を見た)

「夢を見たの」






「……8本足の巨大なスイートロールに追いかけられる夢だ」

(言うに事欠いて、なにそれ。)