シロディールの辺境の薄汚れた港町
カジートたち。
痩せこけたスクゥーマ中毒の男。
のしかかってくるような近い夜空。
遠い雷鳴。
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まるで夜は巨大な殻だ。
覆い被さってくる黒く重い殻だ。


もう随分と長い間、眠っていない。
いや、眠っている。
眠ったままでいる。
随分と長い間。


そうだ


これは夢で、俺は眠っている。


まるで夜は巨大な殻だ。
覆い被さってくる暗く重く深い殻だ。


カジートが言う。

この煙で蓋をするのだ。


カジートが言う。

月から滴った甘い甘い煙。
それは殻となり、ゆめもうつつも覆うのだ。


それは覆い被さる黒く重い殻だ。


それがたった金貨1枚。



死者の瞼の上に金貨をのせるのはどこの風習だったか。
ブレトンか? 
まあいい。



瞼の上の金貨のように、それは俺の夢に蓋をする。
それで束の間俺はあの炎と影と血を忘れる。


その金貨にはもっと大事な意味があった。
本で読んだ。いつだったか、どこだったか。
けれど多分それもまた忘却に関することだ。


目は2つある。
だから金貨は2枚だ。


母親が歌っている。
知らない言葉で。
これは夢だ。

彼女は夢の世界から帰ってこなかった。


栗色の髪が顔にかかっている。
白目の黄ばんだ目は、ここではないどこかを見ている。
彼女は優しい睦言のような声で、「ドヴァキン」と言う。


彼女の上に覆い被さる殻はその歌だ。声だ。
彼女はドヴァキン、と繰り返す。
その目はどこか遠くをみている。ここではないどこかを。
その目はどこか遠くをみていて、たくさんの目が、彼女をみている。
たくさんの目が。



月から滴った、甘く冷たい感覚が、
眠りに落ちるその瞬間のように背筋をなで上げる。
黒く重い殻が夜のように覆い被さっている。
瞼が痙攣する。

誰かに蹴飛ばされたが、俺は膝を抱えて丸くなる。
ここはとても静かで、
ここはとても煩い。

遠くで咆哮を聞く。
それを俺はよく知っている。

巨大な影が翼を広げて俺に覆い被さる。
咆哮には意味がある。
それは声だ。
それは言葉だ。
それは意味をもっている。
俺は知っている。

暗く重く深い殻がひび割れる。

また遠くで何かが吠える。
近くで誰かが怒鳴る。
蹴られる。
殻が砕け散り、降り注ぐ。
雪のように。灰のように。

目を開けると、カジートがのぞき込んでいて、
また、脇腹を蹴飛ばされた。
痛い。
頭が重い。

「仕事の時間だ。ノルド」


ノルド、と言われる度に、笑い出したい気持ちになる。
髭も髪も随分伸びたが。


あの炎の中からどうやって逃げたか覚えていない。
俺はカジートのキャラバンに拾われて、これは好都合、と、頭がいかれた振りをして、スカイリムあたりから来たことを仄めかした。
俺は身なりがよかったし(そう、そのときにはまだ)スカイリムにつれていけば金になる、と踏んだのだろう。奴らは、手足がつながっているのを八大神だか九大神に感謝しなきゃいけないような有様の俺を治療して、キャラバンに加えた。俺は治療の代価を体で返すことになったが、こうしてスクゥーマに消えてしまうから返済はいつになるやら知れたものでもない。
まあいいさ。
別に行く当てだってないんだ。
これはいい隠れ蓑だ。
俺が死んで無いと奴らが感づいたとして、俺がこんなところにこんなザマでいるとは思うまい。

俺はのろのろと身を起こして安物の粗悪な剣を引き寄せた。
空は曇っていて、今にも雨が降ってきそうだ。

遠くで咆哮が聞こえた気がしたが、もう意味もわからなかったし、多分それは遠い雷鳴に過ぎない。

「嵐が来る」

と、カジートは言った。